ハイブリッド医療の実践 慢性疲労症候群の治療と漢方薬
慢性疲労症候群と聞いてもピンとこないかもしれませんが、これは、それまで健康に生活していた人が「学校・職場・家庭で精神的なストレスを抱えている」「風邪などの感染症に罹患した」「紫外線に暴露した」「科学物質の刺激を受けた」などの社会的・物理的・化学的・生物学的なストレスが引き金となって、ある日突然、原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降、強度の疲労感とともに微熱、頭痛、脱力感あるいは思考の障害、気力の減退、集中力の低下、物忘れなどの精神神経症状が長期にわたって続くために、健全な社会生活が送れなくなるという疾患です。
このような病態はかなり以前から報告されていましたが、疾患として定義されたのは比較的最近です。歴史的には1984年に、アメリカのネバダ州の人口約2万人のインクラインという街で、それまで健康に生活していた約200名の人々が原因不明の強い全身倦怠感に襲われるという集団発生が報告されました(当初は「ネバダ・ミステリー」と呼ばれていました)。それに対し、アメリカ疾病予防管理センターが調査に乗り出し、病名を慢性疲労症候群 (Chronic Fatigue Syndrome) としました。アメリカ疾病対策センターの調査・解析の結果によると、慢性疲労症候群は原因不明の激しい疲労ということが、第一条件ではありますが、非常にさまざまな病態を包括した疾患であり、疲労の本態を見出すことは困難であることが判明しました。そこで同センターは1988年に慢性的な疲労の原因が感染症である可能性も考慮して、診断基準を発表しました。これがその後世界中の臨床の場でも使用されるようになりました。当初、未知のウイルスの関連が考えられていましたが、現在では否定されています。
その後、世界中で慢性疲労症候群が報告されるようになりましたが、いまだに病因は解明されていません。ウイルス感染説、中枢神経疾患説、免疫異常説、代謝異常説、内分泌異常説などがあり、現在も研究が続いております。また、一部の症例ではウイルスや他の病原体が原因となっている可能性があると報告されています。ちなみに、現在イギリスでは一般開業医が感冒についでよく診療する疾患であるとまでいわれております。
しかしながら、我が国では広く認知されているとは言い難く、つらい疲労を感じている患者さんは多くの場合、受診した医療機関で「異常なし」という診断をされ、それでも疲労が取れないために心療内科や整形外科などを渡り歩くことになります。表1は日本疲労学会が定めた我が国の慢性疲労症候群の診断指針です。慢性疲労症候群の治療の基本はビタミンBおよびビタミンCの投与ならびに抗不安薬でしたが、近年、日本の医学者を中心に「補中益気湯」という漢方薬が有効であると報告され、注目を集めています。「補中益気湯」は、消化吸収機能を賦活化し、全身の栄養状態を改善させ、生体防御機能を回復させる漢方薬です。古くは結核の患者さん用いられてきましたし、現在では夏バテや術後・抗がん剤治療中の体力増強に用いられております。
また、最近では「補中益気湯」以外に、「人参養栄湯」や「柴胡桂枝湯合加味逍遥散」が用いられております。
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